2013年6月18日火曜日

フランス・ハルス美術館、創立100周年記念展


オランダのハールレムにあるフランス・ハルス美術館は、今年100周年を迎えた。それを記念して17世紀オランダ絵画の黄金時代を代表する画家フランス・ハルスと、彼と影響関係にあった巨匠たちの作品を集めた展覧会「フランス・ハルス- レンブラント、ルーベンス、ティッツィアーノとの共通点」が開催されている。大規模なフランス・ハルスの展覧会は25年振りのことである。

ハルスは人物画を得意とし、モデルの自然なポーズや動き、快活な表情など、まさに血の通う人間の姿を描き出した。《笑う少年》(図左)では歯を見せ無邪気な笑顔をみせる少年が描かれている。17世紀の芸術理論では笑っている表情を描くことは大変難しいとされていたが、ハルスは魅力的な笑顔をすばやい筆致で巧みに表現した。

美術館奥の大広間には、ハルスによる自警団の集団肖像画が集められている。17世紀にスペインからの独立を果たしたオランダでは、防衛と治安維持のために市民が自警団を組織していた。彼らはしばしば集団肖像画を画家に注文して描かせた。集団肖像画が描かれだした当初は、全員の顔が整然と並ぶ集合写真のようなものが多かったが、次第に画面に動きが導入されるようになり、団員達の宴会という設定が流行した。ハルスは団員一人ひとりの表情や個性を描き分けながらも、気の置けない仲間同士がにこやかに酒を酌み交わす、賑やかな宴会の様子を描いた。この部屋の中央には宴会の食卓が再現され、あたかも観客が彼らの宴会に紛れ込んだような気にさせられる。

美術館中庭
展示室では、ハルスとそのほかの画家たちが同じ画題で取り組んだ作品が比較できるように並べて展示されている。そのうちの一組が、1622年にファン・バビューレンが描いた《リュート奏者》と、その翌年にハルスが制作した《リュートを持つ道化師》である。ローマで修行を積んだディルク・ファン・バビューレンは、音楽を奏でる人物やカードを遊びをする人物など、カラヴァッジオ派が好んで描いたテーマをオランダにもたらした人物の一人である。ハルスはバビューレンによってもたらされた新しい画題に取り組み、楽器を奏でる人物を複数描いている。《リュート奏者》に描かれた人物は茶目っ気たっぷりに微笑み、音楽を心から楽しんでいるようだ。

ハールレムを活躍の場としていたハルスであったが、近年の研究において同時代の画家たちとの交流が明らかになった。今展覧会はハルスを中心として、レンブラントやルーベンスなど、17世紀のオランダ・フランドル絵画の影響関係をたどるいい機会になるであろう。

展覧会は7月28日まで開催(月曜日休館)。

フランス・ハルス美術館 Frans Hals Museum
Groot Heiligland 62
2011ES Haarlem
The Netherlands
http://www.franshalsmuseum.nl/en/
開館時間:
月曜日休館
火 – 金 10 :00 – 17:00
土、日 11:00 – 18:00

2013年6月1日土曜日

高嶺格がオランダで個展


カスコの外観
2011年3月11日に東日本大震災にともなう福島第一原子力発電所の事故が発生した。それ以降、私たちの間には、漠然とした放射能に対する不安が広がっていった。その見えざる不安を日本人の現代美術家・演出家である高嶺格(たかみね ただす)が映像作品として可視化させた。これらの映像作品「ジャパン・シンドローム―ユトレヒト・バージョン」は現在、オランダ、ユトレヒトのカスコにて紹介されている。





高嶺は同時代の問題をインスタレーションやメディアアート、パフォーマンスによって浮かび上がらせ、日本のみならず世界でも高く評価されている。例えば《ゴッド・ブレス・アメリカ》(2002年)は、アメリカが9.11以降イラク戦争に突き進むことに対する批判を出発点としたビデオ作品である。そこでは2トンの油粘土でできた巨像に「ゴッド・ブレス・アメリカ」を歌わせようと格闘する姿がクレイアニメの手法で映し出される。

Tadasu Takamine, Japan Syndrome – Yamaguchi Version, 
video. ca. 30 min, still, 2012. Courtesy of Casco
今回の展覧会は二会場で行われている。第一会場では「ジャパン・シンドローム―ユトレヒト・バージョン」が展示されている。《ジャパン・シンドローム》とは、公募で集まったパフォーマーが地元のさまざまな商店などに出向き、原発事故による影響や放射能汚染の懸念を投げかけた時のやりとりをもとに、高嶺が台本を作り、再現した会話劇のシリーズである。山口、関西(京都・大阪)、水戸の3バージョンがあり、これら3作品を同時に展示したのがユトレヒト・バージョンである。

オープニングの風景
商品の安全性をたずねた時に、店員は福島から離れた土地の作物や外国産の魚をすすめたり、客に同調して放射能汚染を危惧したりするものもいたが、多くは不安と恐れを垣間見せながら「検査済みだから大丈夫」、「空気中にもある物質だから問題ない」など、国や県の安全声明や学者の主張を繰り返していた。疑問を抱いていても、政府が言うから、みんなが言うから「安全」と言わざるを得ない消極的な賛同、もしくは積極的に「危険」といえない空気が全ビデオを通じて感じられる。福島に近い当事者としての水戸、そこから離れた関西と山口の反応は当然違っていたが、やはりそこには通底するものがある。

第二会場のカスコ・ショップでは《核・家族》(2012年)が見られる。一階から地下一階の展示室の壁一面に高嶺家の平和な家族写真と世界中でなされてきた核実験の歴史を展示されている。平和な生活の裏で核実験が膨大な回数おこなわれ、日本の平和はアメリカの核兵器によって守られきたという事実が示唆されている。折りしも4月9日にはオランダのデン・ハーグにおいて、日本やオーストラリア、オランダなど核兵器を保有していない10ヵ国で構成する軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)の外相会合が開催されたところである。これからの原発を含めた核のあり方を話し合うためには、これまで見えていなかった問題を考察しなければならないだろう。高嶺の作品は、美術の力によってこれらの問題を明らかにしようとしている。

高嶺格<母と姉と松島>1989、
《核・家族》のインスタレーションより
「高嶺格:ジャパン・シンドローム―ユトレヒト・ヴァージョン」は7月6日まで開催(月曜日休館)

 








カスコ Casco
Nieuwekade 213-215
3511 RW Utrecht
The Netherlands
http://www.cascoprojects.org/
カスコ・ショップ Casco shop
Voorstraat 88
3512AT Utrecht
The Netherlands
開館時間:
火曜日-日曜日12:00 – 18:00
休館日 毎週月曜日