2012年12月26日水曜日

ロッテルダムで『ファン・アイクへの道』開催


Jan van Eyck, The Three Marys at the Tomb, c. 1430-1435. Panel, 71.5 x 90 cm.
Rotterdam, Museum Boijmans Van Beuningen.

オランダのロッテルダムにあるボイマンス・ファン・ベーニンヘン美術館で、15世紀のネーデルラント絵画を中心とした展覧会『ファン・アイクへの道』が開催されている。ここでは、油彩画を確立したヤン・ファン・アイクと同時代の画家たちの作品90点以上が一覧できる。これほどの作品が一堂に介したことはなく、また、脆弱な作品が多いために、今後は同様の展覧会が開催されることはないだろう。

ヤン・ファン・アイクが活躍していた当時、貿易中心地であるパリやアムステルダム、ケルンなどでは商取引だけでなく、芸術作品も国境を越えて伝播し、同時に芸術家たちもヨーロッパを舞台に活躍していた。そのような中、ヤンは多くの画家や作品から学びながら自らの腕を磨き、卓越した表現力を手にした。彼の描いた作品は高い評価を獲得し、多くの画家たちに影響を与えることとなった。



Jan van Eyck, The Annunciation, c. 1430-1435.
Oak, transferred on to canvas in St Petersburg
after 1864,  92.7 x 36.7 cm.
Washington DC, National Gallery of Art,
Andrew W. Mellon Collection
本展覧会には貴重なヤン・ファン・アイクの作品が複数出品されている。『トリノ=ミラノ時祷書』には、現存するヤンの最初期の作品が収められている。緻密な描写は、画家の将来の作品を予感させる。《受胎告知》は、豪華な色彩と精緻な筆で大天使ガブリエルが聖母マリアに神の子を宿したことを告げる場面が描かれている。ガブリエルの虹色の翼と豪奢なローブ、教会内部の複雑な構造や床の装飾など、圧倒的な描写力で質感豊かに表現されている。

ボイマンス・ファン・ベーニンヘン美術館が所蔵する《石棺の傍らの3人のマリア》は、長い間、ヤン・ファン・アイクの兄フーベルトの作品と考えられてきたが、ヤンの作品だとする主張もあり、いまだ研究者の間で意見が分かれている。フーベルトは、ヤンと共にベルギーのゲントにある聖バーフ大聖堂の傑作《ゲントの祭壇画》の中央パネル《神秘の仔羊》を手がけた。1823年の祭壇画の修復により発見された額縁の銘文には、フーベルトは「古今並ぶことなき画家」として称讃され、ヤンは「これに次ぐ画家」と記されている。しかし、現在、フーベルトに関する確実な作品や記録は何ひとつ存在しない。《石棺の傍らの3人のマリア》は謎の画家フーベルトを知るために残された重要な手がかりのひとつである。







《石棺の傍らの3人のマリア》は展覧会に合わせて修復され、あざやかな色彩と繊細な表現がより明らかになった。その過程はホームページで公開されている。また、《ゲントの祭壇画》も2012年10月2日から修復作業が始まった。修復は5年に及ぶものだが、19枚あるパネルのうち数枚ずつ修復されるので、修復中のパネル以外はこれまで通り聖バーフ大聖堂で見ることができる。

「ファン・アイクへの道」展は、2013年2月10日まで開催。(月曜、12月25日、1月1日休館)
http://www.boijmans.nl/en/7/calendar-exhibitions/calendaritem/883/the-road-to-van-eyck
ボイマンス・ファン・ベーニンヘン美術館 Museum Boijmans Van Beuningen
Museumpark 18-20
3015 CX Rotterdam
the Netherlands
http://www.boijmans.nl
開館時間:
火ー日 11:00-17:00 休館日 毎週月曜及び元旦、4月30日、12月25日

2012年11月28日水曜日

-号外- 2013年3月から、日本全国5ヶ所で「ミュシャ展~パリの夢、モラヴィアの祈り」開催!



来年3月から、日本テレビの主催で「ミュシャ財団秘蔵~ミュシャ展~パリの夢、モラヴィアの祈り」展が日本全国5ヶ所で行われる。
2004年~2006年にかけても、財団の全面協力の下にミュシャ展を開催したが、日本テレビによる2度目の開催に相応しい構成に一新し、「あなたが知らない本当のミュシャ」をキーワードに、作品の紹介を通じて、ミュシャ本人の未だ知られざる哲学、思想、祈りなどに焦点をあてる。


東京展
2013年3月9日(土)~5月19日(日)
森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ 森タワー52階)

新潟展
2013年6月1日(土)~8月11日(日)
新潟県立万代島美術館

松山展
2013年10月26日(土)~2014年1月5日(日)
愛媛県美術館

仙台展
2014年1月18日(土)~3月23日(日)
宮城県美術館

札幌展
2014年4月5日(土)~6月15日(日)
北海道立近代美術館



*展覧会の詳しい内容や、チケット販売の情報は、ミュシャ展オフィシャルサイトへ。http://www.ntv.co.jp/mucha/


2012年11月8日木曜日

ロッテルダムでSAMURAI展を見る




オランダ第2の規模を誇り、取引額では世界最大とも言われる港湾を抱えるロッテルダム。ここには、名画のコレクションを誇るボイマンス・ファン・ベーニンヘン美術館と、コレクションを持たずに、良く練られたテーマの展覧会を継続的に行うクンストハル美術館が知られている(最近の大規模な盗難でも知られたが・・・)。また、戦時中の爆撃により破壊された市街地には、キューブハウスをはじめ、その時代の先端を行く建築物が立ち並ぶ「都会」的な都市である。

市街地から港湾の方に少し外れた場所に、ワールド・ミュージアムはある。ロッテルダムに立ち並ぶ近代的な建築物ではなく、伝統的なオランダ風の建物を改装、2009年に現ミュージアムとして再出発した。ワールド・ミュージアムは、アジア、オセアニアのおよそ2000点にも及ぶ宗教に縁のあるオブジェを中心に展示している博物館である。




ここで今、オランダで話題を呼んでいる展覧会が開かれている。タイトルは「サムライ」。日本の武器・武具の展覧会であるが、サムライの戦いに代表される「武士」の側面と、その裏側にある禅的な精神世界、さらにそこから生まれた独特の文化にも踏み込んだ意欲的な展覧会である。鎧、兜、刀剣類、幟や袖印などの武器・武具の他、武将に好まれた文芸の一つ、「能」の能面コレクション、武士の姿を描いた浮世絵の数々、戦いの場面を描いた屏風絵など、300点に及ぶ作品が並び、見るものを圧倒する。特に、武将たちが戦いの作戦会議をしているかのような雰囲気で鎧兜を並べた部屋や、兜だけのコレクション展示の部屋は、展示も見やすく、かつ見ごたえ十分である。

日蘭修交400年が過ぎたオランダには、ライデンのシーボルトコレクションや、民俗学博物館に多くの日本の文物が残されているが、今回の展覧会、鎧・兜の多くは、フィレンツェのStibbert Collection からの出展である。18世紀の終わりに、ベンガル地方の東インド会社総督であったジャイルズ・スティッベールトが富を築いた一家で、ジャイルズの孫フレデリックが、受け継いだ巨万の富をもって蒐集をし、自宅のヴィラを博物館にしたということである。フレデリックの死後、コレクションはフィレンツェに寄贈され、現在は一般公開もされているが、フィレンツェ市内から少し離れた地の利の悪さからか、あまり訪れる人はいないらしい。



日本の甲冑の数々は、外国に放出されてしまったものが多いというが、こうしたコレクターによって、また日本の人たちの目に触れることができるというのは嬉しい。日本に残っている武器武具の多くが、いわゆる殿様の持ち物として代々伝わってきたものである一方、今回の展覧会で見られるような甲冑は、どちらかというと、殿様ではない、上級・下級武士たちの持ち物だったものが多いようだ。江戸時代、平和を享受した代償のように武士たちの生活が苦しくなり、代々伝わった甲冑を生活のために放出した際、家紋や名前を削り取ったということだ。そのために、本来の持ち主がわからないままになっている。いつか、そうした甲冑たちが、日本に里帰りする日がくるかもしれない。
もう一つ、徳川将軍家から、時のオランダ国王ウィレム三世に贈られた刀剣と屏風、さらに鎖国の日本がオランダに対して通商を許可することを記した許可状などは、なかなか目にすることができない展示品で、展覧会の目玉的な存在となっている。

ロッテルダムの「サムライ」展は、来年3月24日まで公開(月曜休館)。
ワールド・ミュージアム Wereldmuseum
Willemskade 22-25
3016 DM Rotterdam
the Netherlands
http://www.wereldmuseum.nl
開館時間:
火ー日 10:30-17:30
休館日 毎週月曜及び元旦、4月30日、12月25日

2012年10月15日月曜日

トゥデイズアート2012





トゥデイズ・アートは、オランダのハーグ市で2005年から毎年秋の週末二日間にわたって行われているメディアアートフェスティバルである。市の中心にある二つの劇場、映画館、それに隣接する市役所の建物を会場にして、オーディオビジュアルやモダンダンスのパフォーマンス、コンサート、クラブ、インスタレーション、美術作品の展示が行われる。8回目の今年は 9月21日夜、ディレクターのオーロフ・ファン・ヴィンデン(Olof van Winden)のスピーチで幕をあけ、多彩なパフォーマンスが始まった。今年は新たな試みのひとつとして アムステルダムを本拠に20年に渡り美術展企画などを展開しているNTVヨーロッパの協力により、和田永、黒川良一といった日本人の新進のアーティストが招聘され、彼らのパフォーマンスが大々的に紹介された。

4つのメイン会場の中心には、市内から集められた家具などの廃棄物を張り合わせて作られた巨大なモニュメントともいうべき、ラウムラボベルリン(Raumlaborberlin)のボルテックス(Vortex/渦の意) が創作された。その内部のスペースにはバーとダンスフロアが設けられ、まるで ブラックホールのようにVortexが集まった人々を包み込み、飲み込んでゆくようだった。これは現代の浪費社会の有り様を表現しているという。この場所は屋外に設置されているため、チケットをもたない一般市民もフェスティバルに参加できるスポットとなっていた。



黒川良一「syn_」
和田永 「ブラウンチューブジャズバンド」
21日夜、メイン会場のひとつであるルーセント・ダンスシアターの大ホールで行われた黒川良一の「syn_」は、無数の細い線が織りなす詳細なデジタルアニメーションとサウンドの組み合わせで構成されていた。黒川を挟み舞台の中心から二つに分けられ張り出された巨大なスクリーンに映し出される映像が、音源と完璧に同化されている。抽象的なビジュアルと音楽、さらに 時折スクリーンの形状も呼応させ、三次元的なパフォーマンスが会場全体を包み込んだ。
白と黒のコントラストが印象的なのは、和田永による「ブラウンチューブジャズバンド」にも共通している。こちらは映像に「変換」された音源を12台のブラウン管テレビ上に映し出し、和田がパーカッションのように叩いたり、触れたりすることで、音楽を作り出すパフォーマンスである。

両日のパフォーマンスの後、2日目には、ブラウンチューブジャズバンドに続き、佐藤公俊、難波卓巳、吉田悠、吉田匡とともに、オープンリール・アンサンブルのパフォーマンスが行われ、オープンリール式テープレコーダーの特性を生かしながら、ライブ中に録音した音源をディスクジョッキーのように操るパフォーマンスを披露して、満員の会場を湧かせた。


オープンリール・アンサンブル
ルーセント・ダンスシアターの真横にある、高い吹き抜けと真っ白な壁が特徴的なハーグ市庁舎では、500平方メートルの広々とした中央のスペースを生かし、売れ残ったり、廃棄された約65,000枚のCDが手作業でつなぎ合わされ、砂丘のような風景を作り出す「浪費風景(WASTE LANDSCAPE)」(エリス・モリン+クレメンス・エリアード Elise Morin + ClÉMENCE ELIARD)が展示され、その中央ではイナーアクト(Inneract)によるハープ、エレクトロニクス、ビジュアルを用いたパフォーマンスが行われた。ミニマル・ミュージックで著名なオランダ人作曲家シメオン・テン・ホルトの「canto ostinato」を軸として、45分から時には数時間に及ぶこの作品の即興演奏を、観客は会場上階の渡り廊下や、上下するエレベータの中から眺めて楽しんでいた。



展覧会場の元発電所
メディアアートには不可欠な電気。これを供給する建物が今年、トゥデイズ・アートの一部として利用されたことは興味深い。中心の会場から少し離れた元発電所の建物では、巨大な室内に、ナム・ジュン・パイクの作品から名前を借りたメディアアートのグループ展「グローバルグ・ルーブ」と、トルコのメディアアート展「コモンズ・テンス(Commons Tense)」が開催された。「グローバルグ・ルーブ」では、 ディック・ラーイメイカーズ (Dick Raaijmakers:電子音楽の創始者、名付け親と言われ、ハーグ市の若手養成にも大きな影響をもたらした)の作品「Ideophone 1: 36」の、スピーカーの振動で跳ね上がる金属玉の音が、巨大な発電所内に小気味良く響く中、名匠とも言うべき著名な作家と次世代を担う若手作家の作品が肩を並べていた。


「未知の探究と熱望」がテーマのトゥディズ・アート2012。時代が変遷期に差し掛かっている今こそ、アーティスト達がそれぞれのルーツに立ち戻り、古き良き物を大切にしながら斬新で先鋭的な作品を創作しようという姿勢が多彩な作品にちりばめられていた。二日間の催しは、無数のベルを使ったベル・ラボラトリー+パンサ・ドゥ・プリンス (The Bell Laboratory + Pantha Du Prince)による「光の要素(Elements of light)」にその成果とメッセージが集約され、盛大なスタンディングオベーションで幕を閉じた。


トゥデイズ・アートフェスティバル TODAYSART 2012
21+22 Sept the Hague
ビデオダイジェスト

2012年9月10日月曜日

NTVヨーロッパ トゥデイズ・アートフェスティバルを後援




2005年からオランダのデン・ハーグ市で始まり、今年8回目を迎えるTodaysArt Festival。世界各国から気鋭のアーティストや、研究者が集結するこのフェスティバル、2012年は、9月21日と22日の両日、ハーグ市の各地に設営された会場で展開する。フェスティバルは、世界の先端を行く、挑戦的な芸術祭として、コンヴェンショナルなアート形態のみならず、ミュージック、ダンス、テクノロジーを積極的に紹介している。
そして、今年は、NTVヨーロッパが始めての試みとして、フェスティバルのプレゼンティグパートナーとなり、日本のアーティストを紹介することとなった。日本でも注目を集めているアーティストだけに、オランダでの注目度も期待されている。

NTVヨーロッパはTodaysArt Festivalと協力することによって、日本とオランダの文化芸術分野における二国間の関係の発展を図り、かつ現代アートという先端芸術の質の高いプログラムを、アーティストや専門家だけではなく、一般にも浸透させられればと願っている。



《パフォーマンス日程》


ブラウンチューブジャズバンド
和田 永
9月21日(金)21:15 ~ 21:45
Theater aan het SpuiのFoyerにて

syn_
黒川良一
9月21日(金)22:45~23:30
Lucent Danstheaterにて

オープンリール・アンサンブル
和田永、佐藤公俊、難波卓巳、吉田悠、吉田匡
9月22日(土)21:00 ~ 22:00
Theater aan het SpuiのSmall Roomにて


*詳しくは、フェスティバルの公式ホームページを参照のこと。


トゥデイズ・アートフェスティバル TODAYSART 2012

2012年7月24日火曜日

テート・モダンでダミアン・ハースト展を見る


Damien Hirst  Sympathy in White Major - Absolution II  2006 (Detail)  Butterflies and household gloss on canvas  
© Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved. DACS 2012. Photographed by Prudence Cuming Associates



ダミアン・ハーストが常にセンセーショナルなのは、その強烈なインパクトに加えて、まるでゲームのようにその作品価値を金額に置き換えるからだろう。
今回のテートモダンでの個展は、日本でもその情報は、話題になっていた。知名度ある美術専門誌、美術手帖でもその特集を組んでいたことでもその注目度合いを推測することが出来る。
 ちなみに、渋谷に先日オープンしたヒカリエという商業施設に小山登美男ギャラリーが入ったが、このこけら落としとなる展覧会はハーストのスポットペインティング展であり、その情報にあいまって、本個展の情報は流布していた。


今回の個展では、お金とアートに一種反抗しながらも、実はその価値を頼りに巧妙にバランスをとる代表作が一同に並ぶ。腐りゆく牛の頭、その頭からわき出す蛆、そして蠅が生まれ、生まれた蠅は電撃殺虫機にぶつかりジリジリと音を立てながら焼け死んでゆく。死から生み出された生が目の前で一瞬にして死に向かう。十分な嫌悪感で強烈なインパクトを鑑賞者に与える。だがハーストの作品はそれをインパクトだけに終わらせない。このインパクトは、生と死を巡る、アートの根本的なテーマと直結し、さらには、その作品が貨幣価値に置き換わるアートマーケットにつながる。

発表当時は、多くの批判を浴びたことであろう。ただその発表からすでに15年も時を経てしまえば、「一度は見たい、あの作品」と思いだされるほどにそのビジュアルは広く知れ渡り、まさに一時代を築いた寵児であることは間違いない。その頂点を築くまでの作品をシンプルな構成かつ、高いクオリティーで提示し、ダミアンの代表作を存分に楽しめる展覧会であることには異論はない。

ただ、誰もが知っているダミアン・ハースト以上を知ることができたか、と聞かれれば、それは否と答えるほかない。初期から貫かれている明確なコンセプトの始まりやそれが作品として昇華されるプロセスやクオリティーの高い作品を量産する生産体制の秘密などは、今回の展示で見つけることは出来ない。みんなが知っているあの作品にまつわるアイディアや発想をかいま見せてくれるような内容を期待してしまったが、まだまだ商品価値が落ちない売れっ子作家にとってみれば、TATEといえどもまだまだ、その価値を上げる一ステップに過ぎないのであろう。その作家性を検証するような大回顧展はまだまだ先に取っておこうということなのかもしれない、それであれば、今回の展示も納得できる。次回の大回顧展まで楽しみはもう少し取っておくことにしよう。
テート・モダン ハースト展は9月9日まで開催。
http://www.tate.org.uk/whats-on/tate-modern/exhibition/damien-hirst


テート・モダン Tate Modern
Bankside London SE1 9TG
http://www.tate.org.uk
Opening times:
Saturday – Thursday, 10.00–18.00
Every Friday, 10.00–22.00

2012年5月15日火曜日

珠玉の1点公開 -ゴッホ美術館-


Pollard Willow, July 1882
Van Gogh Museum, Amsterdam

アムステルダム、ゴッホ美術館でこの度、新しく購入したゴッホの水彩画Pollard Willowが公開された。作品購入は、ゴッホ美術館としては5年ぶりのことで、水彩とは言え、ゴッホの真作であるこの1点は、美術館にとって大きな作品追加となる。アクセル・ルガー館長は、この公開に当たり、ゴッホがハーグに滞在している間に手がけた作品としてはとても重要な作品の一つであり、美術館として購入できればしたい作品の一つになっていたものだとコメントしていた。

1882年夏以前、ゴッホは鉛筆やペンを多用しており、色彩を用いることはあまりなかったようである。しかし、この年の7月になると、水彩で素描を描くようになると共に、これまでの肖像から風景へ、習作スケッチから素描、さらにはモノクロから色彩へと変化が現れてくるようになる。いわば、ゴッホを語る上で重要なポイントで描かれた作品ということができる。

Letter with letter sketch from Vincent to Theo van Gogh, 31 July 1882
Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)
この水彩画は、運河か川に沿って道が伸び、その傍らに頭の部分を切り取られた柳の木(Pollard Willow)がある風景を捉えている。遠景には鉄道駅が見えていて、小さく人の姿も見分けることができる。空は垂れ込めるような雲で覆われ、オランダ特有の憂鬱な天候が表現されている。ゴッホは、弟テオへの手紙の中で、この作品に関わることを伝えており、1通にはゴッホの家の近くの道に柳の木があることに言及し、さらに別の手紙では、描いた水彩画を自分がとても気に入っていることを伝えている。ゴッホ美術館は、これらのゴッホが本作について述べた手紙を所蔵しており、そのこともあって、今回の購入は意欲的だったといえる。



作品は、5月10日から7月10日まではゴッホ美術館の地階で、この当時の他の油彩や関連する手紙などと一緒に展示されている。そして、ゴッホ美術館が改装工事に入る9月以降は、アムステルダムのエルミタージュ美術館別館での展示になるが、本作品は約2ヶ月間のみの公開になるもよう。その後は、水彩であるため、しばらく作品は「休憩」に入る。


今回のゴッホ美術館に限らず、最近は、1点だけを公開する作品展が時々目につく。2月にはマドリッドのプラド美術館で、修復をしたばかりのブリューゲルの作品、The Wine of Saint Martine’s Day を1室に飾って公開。2010年後半に購入した作品で、修復の部分や方法などについてのパネル映像と共に展示していた。またロンドンとスコットランドの両ナショナルギャラリーが最近購入したティツィアン作のDiana and Callistoを7月までロンドンで公開している。この作品は、両ギャラリーが2009年に購入したDiana and Actaeon と対をなす作品。こうした「珠玉の1点」展は、大掛かりな作品展の陰に隠れてしまいがちであるが、美術館と市民との繋がりのためにも、購入作品の公開や、修復結果の報告という目的で、これからも多くなるのではないだろうか。


ゴッホ美術館 Van Gogh Museum
Paulus Potterstraat 7 Amsterdam
(アムステルダム中央駅からトラム 2、5番, Van Baerlestraat駅下車)
http://www.vangoghmuseum.nl/(日本語ページ)
開館時間:
美術館 10:00-18:00 (金曜日は22:00まで)
入館券売場 10:00-17:30 (金曜日は21:30まで)
ミュージアムショップ 10:00-17:45(金曜日は21:45まで)
レストラン 10:00-17:30 (金曜日は21:30まで)

*2012年9月29日から2013年4月25日までの期間、建物の改装につき美術館のコレクションはアムステルダムのエルミタージュ美術館別館に移動、展示されます。



2012年3月15日木曜日

アムステルダム国立美術館(ライクスミュージアム)

2013年春のリニューアル開館を目指して工事が進められている、アムステルダム国立美術館(ライクスミュージアム)で、先ごろ、アジア美術専門のウィングがオランダのメディア各社に公開された。
部門の専門キューレーター、メノー・フィツキー氏によると、オランダは古くからアジアと交易を通じて関係が深く、特に中国、日本、韓国、インドネシアで収集された美術品、その数、およそ7000点を所有しているという。 これらの中から、新しいウィングには常時365点が展示され、うち250点は定期的に展示替えをして、最終的にはほとんどのコレクションを一般公開するということだ。



ライクスミュージアムの旧館から独立したユニークな形状のウィングは、イタリア人建築家のアントニオ・オルティス氏の設計による。地階と地下1階で総面積670平米。地階の方は、インドやインドネシアの美術品を、地下1階には、日本、中国、韓国の作品を置く予定とのこと。12世紀のインドの「シバ神」を現した彫刻や、中国の観音菩薩像と共に、最近コレクション入りをした日本の仁王像一対がこのウィングでの目玉となる。
フィツキー氏は、この独立したウィングの紹介にあたり、3つのポイントを強調した。一つは、来館者がゆったりとした気持ちで作品を見られる雰囲気であること。そして、ユニークな外観ではあるものの、作品を映えさせる内観であること。さらに、小ぢんまりとした建物であるが階段や回廊を用いて意外な効果をもたらせていることを挙げている。

新生ライクスミュージアムでは、その中心部に最も来館者が鑑賞したいと思う作品群、つまり、レンブラントの「夜警」を初めとした、オランダの誇る17世紀絵画を集めて展示する。そして、時間のない海外からの来館者でもオランダ絵画の粋に触れられるよう、「夜警」を展示するNight Watch Room、それに続くGallery of Honourへの直通エレベーターを設置している。デザイン公募から始まり、紆余曲折のあったライクスミュージアムの改築工事だが、ようやくその終わりが見えてきたようだ。



しかし、ヨーロッパの優等生の一人であるオランダもここのところの経済危機からは免れ得ない。去年、政府は芸術や音楽への助成金を大幅にカット。そのため、いろいろな芸術に関わる機関は、全て、自らの力で財源確保を余儀なくされている。美術や芸術に対して寛容で、しかも長期的な視野からの「広報」を目指す企業に働きかける一方、「友の会」を通じて献金を募ったり、一般市民から非課税対象の申告ができる額の寄付金を募るキャンペーンを行ったりと、どこも大変な努力をしている現状である。ライクスミュージアムは、改修工事中にも唯一オープンした新ウィングにオランダの企業フィリップスがスポンサーとなり、その名を冠した。アジア美術の新ウィング、あるいは、Gallery of Honourにも、来年のオープニングに際して名前を冠することができるよう、新たなスポンサー探しを始めているようだ。


アムステルダム国立美術館(ライクスミュージアム)
Rijksmuseum, The Masterpieces
Jan Luijkenstraat 1, 1071 CJ Amsterdam
http://www.rijksmuseum.nl/
Opening hours:
元旦を除き毎日開館: 9:00 - 18:00
チケットカウンターは 17:30に閉まります。