2016年8月12日金曜日

2016年1月にオープンしたエッセンシャル・アート・スペース

fig.1 ©AkzoNobel Art Foundation

設立20周年を迎えたアクゾノーベル美術財団は、2016年1月、オランダ、アムステルダムの自社ビル1階にオープンした<エッセンシャル・アート・スペース>にて初めて財団コレクションを一般公開した。(fig.1)

アクゾノーベル株式会社とは
財団の母体となるアクゾノーベル株式会社はアムステルダムに本社を置き、80カ国に及ぶ国々に展開する、世界最大の塗料会社であリ、特殊化学製品メーカーでもある。その製品は飛行機や船舶、住宅の壁だけでなく、パソコンなどのデバイスや化粧品、食品などにも広く使用されている。

オープニング展「カルチャー・オブ・カラー」
アクゾノーベル美術財団は20年にわたってコンテンポラリー・アートを収集してきた。そのコレクションは、革新的な絵画や映像作品、予想外の材料を組み合わせた創造的な立体作品など、先進的な作品が多数含まれているのが特徴だ。オープニングを飾る展覧会「カルチャー・オブ・カラー」では、この独創的なコレクションを紹介する切り口して、自社の製品とも共通する「色彩」を選んだ。会場では100年前の顔料を提示するピーター・ローレンス・モルの《トータル・アマウント》を中心に据えた「顔料の力」、絵具のトーンや質感、流動性をテーマにした作品を集めた「崇高な輝き」、さまざまな人種の肖像画を展示する「アイデンティティの色」など、興味深いテーマごとに作品が展示している。
<エッセンシャル・アート・スペース>には誰もが自由に出入りでき、入場は無料。
エッセンシャル・アート・スペース The Essential Art Space
Christian Neefestraat 2,
1077 WW Amsterdam
The Netherlands
http://www.artfoundation.akzonobel.com/en
開館時間:
月ー金曜日 10:00-17:00

2016年7月19日火曜日

「ジョージア・オキーフ」展

Fig.1 Georgia O’Keeffe 1887-1986, Jimson Weed/White Flower No. 1, 1932, oil paint on canvas, 48 x 40 inches,
Crystal Bridges Museum of American Art, Arkansas, USAPhotography by Edward C. Robison III © 2016 Georgia
O'Keeffe Museum/DACS, London


ロンドンのテート・モダンで、ジョージア・オキーフの回顧展が開催中である。20世紀初頭、ヨーロッパで始まったキュビスムなどの前衛芸術運動に触発されたアメリカの芸術家たちは、それまでにない斬新な表現を生み出した。アメリカ美術が最も刺激的でダイナミックに変化した時代をけん引したアーティストの一人がオキーフであった。

近代写真の影響
オキーフは今からちょうど100年前の1916年にニューヨークでデビューし、その後70年にもおよぶ長い画業を歩んだ。そのなかで彼女が描いたのは花や風景、動物の骨など限られたモティーフであり、それらを極端に拡大した構図で描いた。この特徴的な構図は近代写真の影響が指摘されている。とくに近代写真の父と呼ばれ、ヨーロッパの前衛美術を紹介するギャラリーの主催者であり、またオキーフの夫でもあったアルフレッド・スティグリッツの影響は大きかった。

極端に拡大された花
彼女の代表作である《チョウセンアサガオ/白い花No. 1》(fig.1)は、一輪の朝鮮朝顔が描かれている。カンヴァスいっぱいに拡大されているが、蕊や葉脈は簡略化され、青・緑・白といった限られた色彩の濃淡で表現されている。伝統的なテーマである花卉画に写真の技法を用いて、新しい表現を与えた。

アメリカの原風景
アメリカ南西部にあるニューメキシコ州に魅了され何度も訪れていたオキーフは、スティグリッツの死後に郊外のアビキューに移り住んだ。そこでは乾いた荒涼とした自然や、自ら拾い集めた石や水牛の骨をモティーフに作品を制作した。1970年代から視力が弱りはじめたが、アシスタントの力を借りながら、98歳で亡くなるまで制作を続けた。

「ジョージア・オキーフ」展は10月30日まで(月曜日休館)
テート・モダン Tate Modern
Bankside
London
SE1 9TG, United Kingdom

+44 (0)20 7887 8888
http://www.tate.org.uk/visit/tate-modern
開館時間:
日ー木曜日 10:00-18:00
金、土曜日 10:00-22:00

2016年6月21日火曜日

「税関吏ルソー」

Fig.1 Henri Rousseau, dit Le Douanier Rousseau (1844-1910) La charmeuse de serpents, 1907 Huile sur toile, 167 x 189,5 cm Paris, musée d’Orsay © RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski

19世紀末から20世紀初頭にかけてフランスで活動した画家アンリ・ルソーの作品を、「アルカイスム」をテーマにひもとく展覧会がパリのオルセー美術館で開催中である。本展では、ルソーの才能をいち早く評価し、老画家を敬愛したピカソをはじめとするモンマルトルの前衛画家たち、ルソーの系譜をひく素朴派の画家たちの作品と並べ、ルソーが近代美術に与えた影響を考察している。

新しい表現
アンリ・ルソーはパリ市入税関の職員として働きながら独学で絵を学んだことから「税関吏ルソー」と呼ばれた。アカデミックな教育を受けていないゆえの素朴で生硬な表現は、新しい表現方法としてパリの前衛的な画家たちに大きな影響を与えた。

近現代の新しい世界
ルソーの作品の特徴は、素朴な表現方法で描きながらも同時代の目新しい事象を題材に選んだことだ。例えば、《ピエール・ロティ》の背景には煙を吐く工場の煙突を描き、《風景の中の自画像(私自身、肖像=風景)》では、パリ万博の高揚した雰囲気のなかに万国旗を掲げた船舶や気球などを描いている。また、《蛇使いの女》(fig.1)や《夢》に描かれた異国情緒あふれる背景も、植民地の広がりによってもたらされたこれまでになかった風景である。新しい世界を新しい表現で描くルソーに、若い画家たちは惹かれたのかもしれない。

「税関吏ルソー」展は7月17日まで(月曜日休館)
オルセー美術館 Musée d'Orsay
1 Rue de la Légion d'Honneur
75007 Paris, France
+33 1 40 49 48 14
http://www.musee-orsay.fr/en/
開館時間:
9:30-18:00 (月曜日休館、木曜日は21:45まで)

2016年5月4日水曜日

「パウル・クレー 作品にイロニー(風刺)を」展

Fig.1 PAUL KLEE, Insula dulcamara, 1938, oil and colour glue paint on paper on hessian canvas, 88 x 176 cm, Zentrum Paul Klee, Berne

フランス国内では1969年以来となるパウル・クレーの大回顧展がポンピドゥー・センターで開催中だ。250点におよぶ重要なクレー作品が展示され、「イロニー(諷刺)*」をテーマにして作品とクレーの人物像に新しい一面に光を当てている(fig.1)。*シュレーゲル理論での言葉。アイロニーと同義の概念(以下参照)

Fig.2 PAUL KLEE, Der Held mit dem Flügel, 
Le Héros à l’aile, 1905, Etching, 25,7 x 16 cm,
Zentrum Paul Klee, Berne
イロニー(諷刺)の概念
クレーはミュンヘンの美術学校で勉強したのち、イタリアに旅立った。そこでギリシャの古代美術やルネサンス美術の完成した美を目にし、もし自分が古典的な理想主義を追い求めるならば、過去の模倣者になるしかないことを悟った。そして自らの新しい表現方法を模索した結果、ドイツの初期ロマン主義の思想家シュレーゲルが唱えた「イロニー(諷刺)」という概念に遭遇した。イロニーを、高い理想と批判を同時に表現できる新しい表現方法と捉えたクレーは、日記に「敵対するもの(カリカチュアや諷刺)を描くことによって美に奉じる」と書き記した。

人間は空を飛べるのか
《翼をもった英雄》(fig.2)は、肩から一枚だけ翼を生やした屈強な男性を描いている。彼は何度も空を飛ぼうと試みて失敗したせいか、満身創痍である。この作品をクレーが制作したのは、ライト兄弟が世界で初めての有人飛行を成功させて2年後のことである。人間が空を飛ぶことに関して懐疑的な考えを持つクレーは、皮肉を込めてこの作品を描いた。

詩的な作品の下に隠されたもの
これまで作品の物語性や詩情豊かな色彩が多くの人々にクレーの芸術の魅力を伝える役割をはたしてきた。しかし、イロニー(諷刺)の観点から作品を見ると、その魅力の下に隠された作品の深みを感じられるだろう。

<パウル・クレー 作品にイロニーを>展は、8月1日まで開催(火曜日休館)
ポンピドゥー・センター  Centre Pompidou
19 Rue Beaubourg
75004 Paris
France
http://www.centrepompidou.fr/en
開館時間:
11:00-23:00  休館日 火曜

2016年4月9日土曜日

「ふしだらな女:1850年から1910年にかけてのフランス美術における売春」

Fig.2 Bed, after 1860, painted, gilt and carved wood, Ville de Neuilly-sur-Seine. Photo: Jan-Kees Steenman

アムステルダムのゴッホ美術館で、19世紀後半から20世紀にかけてのパリの文化を語る、挑戦的な展覧会が開催されている。

Fig.1 Edgar Degas, Absinthe, 1875–6, oil on canvas,
36 ¼ × 27 in., Paris, Musée d’Orsay
パリの夜を彩る女たち
19世紀、産業革命によって生活環境が改善し、オペラ座やエッフェル塔などが建造され、パリの街が様変わりした。これらの工事を請け負ったのはフランス各地から集まった労働者だ。彼らは夜になると快楽を求めて女たちの元に行った。
当時、パリには数多くの娼婦がいた。街頭やカフェなどで客引きをする女たちから、娼館で働くもの、そして、上流階級の愛人から邸宅を与えられた高級娼婦などである。また、スポットライトを浴びる華々しいキャバレーの踊り子やオペラ座のバレエダンサーも、舞台が終わればパトロンの男性の妾のような存在になるという意味では、娼婦と同じ境遇であった。

芸術家たちにとっての娼婦
芸術家たちは、詩人ボードレールが『現代生活の画家』のなかで展開したモデルニテ(modernité 近代性、現代性)を表現できる格好の題材として娼婦を扱った。ドガは客引きの場であるカフェでアプサンを飲む姿を描き(fig.1)、トゥールーズ=ロートッレック、ピカソ、ヴァン・ドンゲン、クプカなどは男女の熱気に溢れたキャバレーのなかで、ひときわ派手な服装で男たちに媚態をみせる女たちを描いた。

観覧者は、男が女を見初めるパリの路上、女たちが客を探すカフェやダンス・ホールなどから、閉じられた世界である娼館や非合法な売春が行われていた場所へと導かれる。展示作品には美術作品のほか、高級娼婦のベッド(fig.2)や娼婦らが使用していた小物、また彼女らを登録し管理するための台帳などもあり、絵画に描き出されない実際的な女たちの様子も伝えている。

「ふしだらな女:1850年から1910年にかけてのフランス美術における売春」展は、6月19日まで開催。


ゴッホ美術館 Van Gogh Museum
Museumplein 6
1071 DJ Amsterdam
The Netherlands
http://www.vangoghmuseum.nl
開館時間:
7月14日まで9:00-18:00 (金曜日は22:00まで)
7月15日から9月4日まで9:00-19:00 (金曜日は22:00まで、土曜日は21:00まで)
9月5から11月6日まで9:00-18:00 (金曜日は22:00まで)
上記以外は9:00-17:00 (金曜日は22:00まで)

2016年3月17日木曜日

大回顧展「ヒエロニムス・ボッシュ―天才のビジョン」

fig.1 Jheronimus Bosch, The Hay Wain, 1510-16, Madrid, Museo Nacional del Prado.With the special collaboration of The Museo Nacional del Prado.Photo: Rik Klein Gotink and Robert G. Erdmann for the Bosch Research and Conservation Project.
2016年は奇想の画家ヒエロニムス・ボッシュの没後500年にあたる。この記念すべき年に、彼の故郷であるオランダのデン・ボッシュ(正式名称:スヘルトーヘンボッシュ)にて「ヒエロニムス・ボッシュ―天才のビジョン」展が開催中だ。本展では、貴重な祭壇画などの絵画20点と19点の素描、そして彼の追随者たちの作品を展示し、史上最大規模のボッシュ回顧展となっている。

fig.2 Hieronymus Bosch, The Temptation of Saint 
Anthony (fragment), c. 1500–10, Oil on oak panel,
38.6 × 25.1 cm. Kansas City, Missouri,
The Nelson-Atkins Museum of Art, purchase William
Rockhill Nelson Trust. Photo Rik Klein Gotink and
image processing Robert G. Erdmann for the Bosch
Research and Conservation Project.
二つの世界:現実と幻想
ヒエロニムス・ボッシュは二つの世界で生きていた。彼を取り巻く現実の世界と、彼の頭の中に存在する幻想の世界だ。現実世界はキリスト教の神によって創造され規定されている。どんな悪や恐怖、暴力であろうとも、全てが神によって定められたものである。ボッシュは神が創りだした現実世界を詳細に観察し、そこに鳥や魚、人体、人工物などを自由に合成した魔物や怪物など架空の生物を紛れ込ませ、独創的な世界を創造した。ボッシュの代表作、三連祭壇画《干し草車》(fig.1)では、ユーモラスな魔物たちが中央の干し草を右側の地獄へと運び込もうとしている。

発見されたボッシュの作品
この展覧会の開催に合わせて、世界的なボッシュ作品の調査が行われた。その過程で複数の作品がボッシュの真作であると認められた。そのひとつがアメリカで見つかった《聖アントニウスの誘惑》(fig.2)である。悪魔の誘惑に晒されて信仰を試される聖アントニウスは、ボッシュがしばしば取り組んだテーマのひとつである。調査では、この小さな作品は三連祭壇画の一部であったであろうと結論付けている。

「ヒエロニムス・ボッシュ―天才のビジョン」展は5月8日まで(会期中無休)
北ブラバント美術館 Het Noordbrabants Museum
Verwersstraat 41
5211HT ’s-Hertogenbosch
The Netherlands
http://boschexpo.hetnoordbrabantsmuseum.nl/en
開館時間:
会期中無休 9:00—20:00, 3月24日より9:00—23:00

2016年2月8日月曜日

「ブライトナー 着物の少女」展

Girl in a White Kimono, 1894, George Hendrik Breitner. Rijksmuseum, Amsterdam

オランダ各地の美術館で、着物を着た愛らしい少女の作品を目にする。これらの作品を描いたのはオランダ人画家ジョージ・ヘンドリック・ブライトナーだ。アムステルダム国立美術館では、ブライトナーが制作した着物を着た女性を描いた全13作品を展示する「ブライトナー 着物の少女」展を開催する。
ジャポニスムの影響
ブライトナーが着物の少女の作品群を描いたのは1894年頃のことである。パリでジャポニスムが花開いていた頃で、モネやゴッホなど、ヨーロッパの芸術家たちは日本美術に多大な影響を受けた。ゴッホの友人のひとりであるブライトナーも西洋美術の伝統に染まらず、平面的で明快なコントラストを占める日本の版画に強い関心を抱き、自ら収集もしていた。

着物の少女、ヘーシェ・クワク
fig. G.H. Breitner, Geesje Kwak in rode kimono, 1893-1895.
Daglichtgelatinezilverdruk, originele afdruk. RKD,
Nederlands Instituut voor Kunstgeschiedenis, Den Haag
着物を着た少女は、帽子店で働く店員ヘーシェ・クワクで、16歳から18歳にかけて頻繁に彼のモデルを務めた。彼女を描いた作品のうち、ほとんどが同じ室内で描いたものである。東洋の敷物で覆われたベッドのすぐ後ろに屏風が置かれ、奥行を制限することで親密な印象が強められている。ベッドに横たわるヘーシェは、白地または赤地の小花を散らした着物を身につけている。クッションに頭を預けたり、両腕を頭の後ろに回したりして、物憂げに宙を見ている。

写真
オランダ国立美術史研究所にはブライトナーが撮影した写真2300枚が所蔵されている。ブライトナーは、レンズを通して観察したものを咀嚼し、カンヴァスに描きとめた。《着物の少女》のために撮影した写真(fig)と作品を見比べると、彼の思考の道のりを辿ることができるだろう。

「ブライトナー 着物の少女」展は2月20日から5月22日まで

アムステルダム国立美術館 Rijksmuseum
Museumstraat 1
1071 CJ Amsterdam
The Netherlands
https://www.rijksmuseum.nl/en
開館時間:
9:00-17:00 年中無休