2016年11月23日水曜日

「フラ・バルトロメオ―神のルネサンス」展

Fig. 1 Fra Bartolommeo, Madonna della Misericordia (Madonna of Mercy 
Surrounded by a Throng with St Dominic and the Donor), 1515. Canvas,
392 x 268 cm. Lucca, Museo Nazionale di Villa Guinigi.


フラ・バルトロメオはレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロと並び称される、盛期ルネサンスを牽引した画家である。堂々とした人物、繊細な色彩、衣服の襞の描写が巧みなことで知られている。展覧会では、絵画11点と素描約140点が展示されている。絵画作品は少ないものの、初期から後期の作品までが含まれている。

Fig.2 Fra Bartolommeo, Composition Drawing 
for the Madonna della Misericordia, circa
1515. Black chalk, heightened with white, on
light grey prepared paper, 293 x 218 mm.
Rotterdam, Museum Boijmans Van Beuningen
(former collection Koenigs).


世界一のフラ・バルトロメオの素描の所蔵数を誇る美術館
展覧会を開催しているボイマンス・ファン・ベーニンヘン美術館は、フラ・バルトロメオの素描を世界で最も多く所蔵している。1729年にフィレンツェのコレクターがバルトロメオの素描500点を2冊の書籍に編纂したものを、1940年に美術館の創立者となるファン・ベーニンヘンが購入したからである。

素描から辿る画家の意図
16世紀の画家の作品でこれだけの素描が現存している画家はほかにはいない。例えば、フレスコ画《最後の審判》に関する素描は60点以上が確認されている。バルトロメオは同一人物を構図やポーズを決めるまで何度も描いている。彼は人物のポーズの研究用に、関節が曲がるマネキンをモデルに使用した。首の傾きや腕の上げ方、床についた膝の出し方などを数センチ刻みで動かすことで、ポーズから感じ取れる性格や感情の違いを表現し、また、それによって変化する身体を覆うローブの襞に注意を払って素描を繰り返し描いて、最適なポーズを決定していった。素描を制作順に見ていくと、画家がどこを注力しながら修正を加え、最終的に何を選択したのかが手に取るようにわかる。

会場では、素描と絵画作品のほかに、絵画作品をモノクロームに印刷した写真が素描のすぐそばに貼られている。モノクロームにされたおかげで、線描が強調され、より素描との共通点が探れるようになっている。

「フラ・バルトロメオ」展は2017年1月15日まで開催。
ボイマンス・ファン・ベーニンヘン美術館 Museum Boijmans Van Beuningen
Museumpark 18-20
3015 CX Rotterdam
the Netherlands
http://www.boijmans.nl/en/
開館時間:
火曜日~日曜日 11:00-17:00
12月5日、12月24日、12月31日 11:00-16:00

休館日:
毎週月曜日及び1月1日、4月27日、12月25日

2016年11月2日水曜日

「マグリット―イメージの裏切り」展

Fig. 1 René Magritte, La Décalcomanie, 1966, Huile sur toile, 81 × 100 cm, Dr Noémi Perelman Mattis et Dr Daniel C. Mattis, © Adagp, Paris 2016, © Photothèque R. Magritte / Banque d’Images, Adagp, Paris, 2016

今年、40周年を迎えたパリのポンピドゥー・センターでは、9月27日から「マグリット―イメージの裏切り」展が始まった。ベルギーの画家ルネ・マグリットはシュールレアリスムの画家として知られ、想像力を駆使して、一見無関係と思える日常的なイメージを組み合わせ、夢と現実が矛盾することなくひとつの世界を形作るような「超現実」を実現しようとした(fig.1)。マグリットはミシェル・フーコーなどの哲学者とも交流をしており、その影響も強く認められる。

Fig.2 René Magritte, La Trahison des images (Ceci n’est pas une pipe),
1929, Huile sur toile, 60,33 x 81,12 x 2,54 cm, Los Angeles County Museum
of Art. Purchased with funds provided by the Mr. and Mrs. William Preston
Harrison Collection, © Adagp, Paris 2016, © Photothèque R. Magritte
/ Banque d’Images, Adagp, Paris, 2016
マグリットの絵画言語
本展では、思想と芸術という観点からのマグリット作品の解読を提案している。マグリットは繰り返し使用したいくつかの特徴的なモティーフ―カーテン、文字、額や区切られた空間、影-はそれぞれの意味を持ち、哲学者が理路整然と論を展開するようにマグリットは絵画の中でこれらの絵画言語を使用して語った。例えば、額や区切られた空間はプラトンの「洞窟の比喩」であり、影は大プリニウスが『博物誌』に記した絵画の発明のことだと捉えられる。

「これはパイプではない」
《イメージの裏切り(これはパイプではない)》(fig.2)はパイプの絵の下に「これはパイプでない」という文字が書かれている。絵と文字が矛盾しているように思えるが、しかし、いくら本物と見間違えるほどのパイプであってもやはり絵なのである。文字とイメージの対立は偶像を崇拝するイスラエルの民に激怒したモーセが十戒の石板を破壊する聖書の時代にさかのぼる長い歴史を持っている。

「マグリット―イメージの裏切り」展は2017年1月23日まで開催。(火曜日休館)


ポンピドゥー・センター  Centre Pompidou
19 Rue Beaubourg
75004 Paris
France
http://www.centrepompidou.fr/en
開館時間:
11:00-23:00  休館日 火曜

2016年9月19日月曜日

フォーリンデン美術館がオープン


Fig.1 Museum Voorlinden, Wassenaar [foto: Pietro Savorelli]
9月11日、オランダのハーグ郊外のワッセナーにフォーリンデン美術館が開館した(fig.1)。館長にはアムステルダム国立美術館の元館長ヴィム・パイベス氏が就任した。オランダ最大の個人コレクターであるヨープ・ファン・カルデンボルフ氏が50年をかけて収集した約5000点を展示する。カルデンボルフ・コレクションの一部は1995年から公開されていたが、ついに美術館の開館によって、その全貌が明らかにされることになった。

最大のコレクション
Fig.2 Richard Serra (1938) Open Ended (2007-2008)
Museum Voorlinden, Wassenaar [foto: Antoine van Kaam]
16歳のときに初めて作品を購入して以降、カルデンボルフ氏はオランダ内外の展覧会やギャラリーを訪れ美術品収集を行ってきた。興味の対象は絵画、彫刻、版画、写真と幅広い。コレクション中で最も大きなリチャード・セラによる《オープン・エンド》(fig.2) はこの美術館の建築によって初めてお披露目された。この作品は総重量216トンもあり、展示するためには美術館の床を補強しなければならなかった。そのほかにも非現実な大きさで人体を徹底的に再現したロン・ミュエクの《パラソルの下のカップル》、プールの中に入っている人を外から観客が眺めることができるレアンドロ・エルリッヒ《スイミング・プール》などを見ることができる。

自然と芸術
豊かな自然を有する40ヘクタールという広大な敷地内にフォーリンデン美術館は建設された。建物の外壁の一部はガラス張りで、建物の中にいながら自然の中にいるような気分を味わえる。建物の周辺にはヘンリー・ムーアやソル・ルウィットなどの野外彫刻60点が設置され、それらを巡るガイドツアーも用意されている。


フォーリンデン美術館 Museum Voorlinden
Buurtweg 90
2244 AG Wassenaar
The Netherlands
http://www.voorlinden.nl/?lang=en
開館時間:
毎日開館
11:00-17:00

2016年8月12日金曜日

2016年1月にオープンしたエッセンシャル・アート・スペース

fig.1 ©AkzoNobel Art Foundation

設立20周年を迎えたアクゾノーベル美術財団は、2016年1月、オランダ、アムステルダムの自社ビル1階にオープンした<エッセンシャル・アート・スペース>にて初めて財団コレクションを一般公開した。(fig.1)

アクゾノーベル株式会社とは
財団の母体となるアクゾノーベル株式会社はアムステルダムに本社を置き、80カ国に及ぶ国々に展開する、世界最大の塗料会社であリ、特殊化学製品メーカーでもある。その製品は飛行機や船舶、住宅の壁だけでなく、パソコンなどのデバイスや化粧品、食品などにも広く使用されている。

オープニング展「カルチャー・オブ・カラー」
アクゾノーベル美術財団は20年にわたってコンテンポラリー・アートを収集してきた。そのコレクションは、革新的な絵画や映像作品、予想外の材料を組み合わせた創造的な立体作品など、先進的な作品が多数含まれているのが特徴だ。オープニングを飾る展覧会「カルチャー・オブ・カラー」では、この独創的なコレクションを紹介する切り口して、自社の製品とも共通する「色彩」を選んだ。会場では100年前の顔料を提示するピーター・ローレンス・モルの《トータル・アマウント》を中心に据えた「顔料の力」、絵具のトーンや質感、流動性をテーマにした作品を集めた「崇高な輝き」、さまざまな人種の肖像画を展示する「アイデンティティの色」など、興味深いテーマごとに作品が展示している。
<エッセンシャル・アート・スペース>には誰もが自由に出入りでき、入場は無料。
エッセンシャル・アート・スペース The Essential Art Space
Christian Neefestraat 2,
1077 WW Amsterdam
The Netherlands
http://www.artfoundation.akzonobel.com/en
開館時間:
月ー金曜日 10:00-17:00

2016年7月19日火曜日

「ジョージア・オキーフ」展


ロンドンのテート・モダンで、ジョージア・オキーフの回顧展が開催中である。20世紀初頭、ヨーロッパで始まったキュビスムなどの前衛芸術運動に触発されたアメリカの芸術家たちは、それまでにない斬新な表現を生み出した。アメリカ美術が最も刺激的でダイナミックに変化した時代をけん引したアーティストの一人がオキーフであった。

近代写真の影響
オキーフは今からちょうど100年前の1916年にニューヨークでデビューし、その後70年にもおよぶ長い画業を歩んだ。そのなかで彼女が描いたのは花や風景、動物の骨など限られたモティーフであり、それらを極端に拡大した構図で描いた。この特徴的な構図は近代写真の影響が指摘されている。とくに近代写真の父と呼ばれ、ヨーロッパの前衛美術を紹介するギャラリーの主催者であり、またオキーフの夫でもあったアルフレッド・スティグリッツの影響は大きかった。

極端に拡大された花
彼女の代表作である《チョウセンアサガオ/白い花No. 1》(fig.1)は、一輪の朝鮮朝顔が描かれている。カンヴァスいっぱいに拡大されているが、蕊や葉脈は簡略化され、青・緑・白といった限られた色彩の濃淡で表現されている。伝統的なテーマである花卉画に写真の技法を用いて、新しい表現を与えた。

アメリカの原風景
アメリカ南西部にあるニューメキシコ州に魅了され何度も訪れていたオキーフは、スティグリッツの死後に郊外のアビキューに移り住んだ。そこでは乾いた荒涼とした自然や、自ら拾い集めた石や水牛の骨をモティーフに作品を制作した。1970年代から視力が弱りはじめたが、アシスタントの力を借りながら、98歳で亡くなるまで制作を続けた。

「ジョージア・オキーフ」展は10月30日まで(月曜日休館)
テート・モダン Tate Modern
Bankside
London
SE1 9TG, United Kingdom

+44 (0)20 7887 8888
http://www.tate.org.uk/visit/tate-modern
開館時間:
日ー木曜日 10:00-18:00
金、土曜日 10:00-22:00

2016年6月21日火曜日

「税関吏ルソー」

Fig.1 Henri Rousseau, dit Le Douanier Rousseau (1844-1910) La charmeuse de serpents, 1907 Huile sur toile, 167 x 189,5 cm Paris, musée d’Orsay © RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski

19世紀末から20世紀初頭にかけてフランスで活動した画家アンリ・ルソーの作品を、「アルカイスム」をテーマにひもとく展覧会がパリのオルセー美術館で開催中である。本展では、ルソーの才能をいち早く評価し、老画家を敬愛したピカソをはじめとするモンマルトルの前衛画家たち、ルソーの系譜をひく素朴派の画家たちの作品と並べ、ルソーが近代美術に与えた影響を考察している。

新しい表現
アンリ・ルソーはパリ市入税関の職員として働きながら独学で絵を学んだことから「税関吏ルソー」と呼ばれた。アカデミックな教育を受けていないゆえの素朴で生硬な表現は、新しい表現方法としてパリの前衛的な画家たちに大きな影響を与えた。

近現代の新しい世界
ルソーの作品の特徴は、素朴な表現方法で描きながらも同時代の目新しい事象を題材に選んだことだ。例えば、《ピエール・ロティ》の背景には煙を吐く工場の煙突を描き、《風景の中の自画像(私自身、肖像=風景)》では、パリ万博の高揚した雰囲気のなかに万国旗を掲げた船舶や気球などを描いている。また、《蛇使いの女》(fig.1)や《夢》に描かれた異国情緒あふれる背景も、植民地の広がりによってもたらされたこれまでになかった風景である。新しい世界を新しい表現で描くルソーに、若い画家たちは惹かれたのかもしれない。

「税関吏ルソー」展は7月17日まで(月曜日休館)
オルセー美術館 Musée d'Orsay
1 Rue de la Légion d'Honneur
75007 Paris, France
+33 1 40 49 48 14
http://www.musee-orsay.fr/en/
開館時間:
9:30-18:00 (月曜日休館、木曜日は21:45まで)

2016年5月4日水曜日

「パウル・クレー 作品にイロニー(風刺)を」展

Fig.1 PAUL KLEE, Insula dulcamara, 1938, oil and colour glue paint on paper on hessian canvas, 88 x 176 cm, Zentrum Paul Klee, Berne

フランス国内では1969年以来となるパウル・クレーの大回顧展がポンピドゥー・センターで開催中だ。250点におよぶ重要なクレー作品が展示され、「イロニー(諷刺)*」をテーマにして作品とクレーの人物像に新しい一面に光を当てている(fig.1)。*シュレーゲル理論での言葉。アイロニーと同義の概念(以下参照)

Fig.2 PAUL KLEE, Der Held mit dem Flügel, 
Le Héros à l’aile, 1905, Etching, 25,7 x 16 cm,
Zentrum Paul Klee, Berne
イロニー(諷刺)の概念
クレーはミュンヘンの美術学校で勉強したのち、イタリアに旅立った。そこでギリシャの古代美術やルネサンス美術の完成した美を目にし、もし自分が古典的な理想主義を追い求めるならば、過去の模倣者になるしかないことを悟った。そして自らの新しい表現方法を模索した結果、ドイツの初期ロマン主義の思想家シュレーゲルが唱えた「イロニー(諷刺)」という概念に遭遇した。イロニーを、高い理想と批判を同時に表現できる新しい表現方法と捉えたクレーは、日記に「敵対するもの(カリカチュアや諷刺)を描くことによって美に奉じる」と書き記した。

人間は空を飛べるのか
《翼をもった英雄》(fig.2)は、肩から一枚だけ翼を生やした屈強な男性を描いている。彼は何度も空を飛ぼうと試みて失敗したせいか、満身創痍である。この作品をクレーが制作したのは、ライト兄弟が世界で初めての有人飛行を成功させて2年後のことである。人間が空を飛ぶことに関して懐疑的な考えを持つクレーは、皮肉を込めてこの作品を描いた。

詩的な作品の下に隠されたもの
これまで作品の物語性や詩情豊かな色彩が多くの人々にクレーの芸術の魅力を伝える役割をはたしてきた。しかし、イロニー(諷刺)の観点から作品を見ると、その魅力の下に隠された作品の深みを感じられるだろう。

<パウル・クレー 作品にイロニーを>展は、8月1日まで開催(火曜日休館)
ポンピドゥー・センター  Centre Pompidou
19 Rue Beaubourg
75004 Paris
France
http://www.centrepompidou.fr/en
開館時間:
11:00-23:00  休館日 火曜